本記事は、みずほリサーチ&テクノロジーズのレポート「AI利活用がもたらす日本経済への影響~期待される140兆円の経済効果実現に向けた課題と対応方向性~」(2025年1月29日発表)を基に、AIの普及が日本経済にもたらす影響や課題、対応策について整理し、考察を加えています。
AIがもたらす日本経済へのインパクト
労働力不足
日本は深刻な労働力不足という課題を抱えています。少子高齢化の進行により、生産年齢人口の減少が続くことは避けられません。今後、労働力の確保が一層困難になり、企業の稼働率や生産活動に支障をきたすことが懸念されています。
AI導入による経済効果:140兆円の押し上げ
人手不足を解消する手立てとしてAIの利活用が期待されています。
みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によると、AIの普及が進んだ場合、日本の労働生産性は年平均1.3%向上し、2035年までの累積でGDPを約140兆円押し上げる可能性があります。
AIの活用による効果
労働時間削減
AIは、定型業務やデータ分析などのタスクを代行できるため、コスト削減と処理精度の向上を同時に実現できます。例えば、文書作成やデータ照会は比較的導入しやすく、多くの業種や職種で工数削減の効果が期待されています。特に、事務職、金融・保険、学術・専門サービス、情報通信などの業界では、その効果が大きく表れます。一方、医療・福祉、宿泊・飲食などの対人サービス色が強い業種では、業務の一部のみ自動化できるにとどまるため、影響は相対的に小さいと見込まれています。
新たな付加価値の創出
単なるコスト削減にとどまらず、AIを活用したパーソナライズ化や新規サービスの開発を通じて、企業は新たな収益源を獲得できます。例えば、医療や創薬分野におけるビッグデータの活用や、顧客ニーズを予測した商品の自動提案は、新たな付加価値を生み出す有望な分野です。
AI普及の鍵
AIの効果を最大化するためには、データの蓄積と活用が欠かせません。企業が競争優位性を確立するには、自社の固有データ(Closed Data) をいかに活用するかが重要になります。Closed Dataに対して、誰でも自由にアクセス・利用・共有できるデータ(Open Data)があります。政府や自治体、企業、研究機関などが公開しているデータがこれに該当します。
Open Data活用の限界
- ChatGPTのようなAIでは、どの企業も似たような結果を出すようになり、差別化が難しくなる
- 競争優位性を築くには、独自データが必要
Closed Dataの活用戦略
- 企業独自のデータを活用したAIのカスタマイズ
- 部署横断的にデータを連携
- データを活用して新しい価値を生み出す
AI活用の最大の課題
AIの導入が進めば、すべてが順調に進むわけではありません。特に、日本ではスキルミスマッチが最大の課題とされています。
AIの普及により、多くの仕事が自動化される一方で、人間が担うべき仕事が変化します。特に、単純作業が減少し、判断力やコミュニケーション力が求められる仕事が増えることが予測されます。
スキルミスマッチへの対応
企業の役割
AIの導入により、代替や業務の効率化が進む職種では、人員の余剰が発生します。一方で、人手不足の分野や高付加価値業務への人材再配置には、個々のスキル転換が不可欠です。
企業が体系的な学習機会や研修プログラムを提供しなければ、多くの労働者が十分なスキルを習得できず、取り残されるリスクがあります。特に日本企業では、自己啓発の負担が個人任せになりがちであるため、企業側の積極的な投資が求められます。
また、どの部分をAIで効率化し、どの部分を人間の判断や提案力で差別化するかを明確にする必要があります。
- 人に求められる領域の見極め
- リスキリングを推進し、スキル転換を促す
- 企業内でのキャリアパスの見直し
政府の役割
政府は、AIの積極的な活用を促進する一方で、普及に伴うリスクを管理し、社会全体がスムーズにAI時代へ移行できるよう、促進と保護のバランスを取りながら政策を進める必要があります。
促進の政策
- 中小企業向けのAI導入補助金の拡充
- 安全性確保を前提とした規制緩和
- 国産AI開発の支援
保護の政策
- AIの誤情報・フェイクニュース対策
- AI時代の雇用変化に対応するリスキリング支援
- 電力不足対策(データセンター増設と電源確保)
まとめ
AIを活用し、日本経済の持続的な成長を実現するためには、次の3つの視点が重要です。
- AIによる業務効率化と新たな価値創出のバランスを取る
- スキルミスマッチを解消し、人材を適切に再配置する
- 企業と政府による全面的支援
参考文献
みずほリサーチ&テクノロジーズ, 2025年1月29日. 「AI利活用がもたらす日本経済への影響~期待される140兆円の経済効果実現に向けた課題と対応方向性~」.
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/2025/pdf/report250129.pdf
